壁のスイッチを入れると、天井の明かりは一瞬でつきます。遠くの発電所でつくられた電気も、ほとんど待たずに家まで届きます。
「電気は光の速さで走っている」——そんなふうに聞いたことがある方も多いと思います。半分は正解で、半分は少し違います。今日は軽めの読み物として、電気の「速さ」の話をします。
光に近い速さで伝わるのは「合図」
電線の中を、光に近い速さで伝わっていくのは、電気の「合図」です。
もう少し正確に言うと、電線のまわりにできる電気と磁気の場の変化(電磁的な「押す力」)が、光に近い速さで電線に沿って伝わっていきます。電線の種類などによって光そのものよりは遅くなりますが、それでも人間の感覚では「一瞬」です。
スイッチを入れた瞬間に明かりがつくのは、この合図があっという間に電球まで届くからです。
電子そのものは、とてもゆっくり
では、電線の中の電子はどうでしょうか。
実は、電子が電線の中を進む平均の速さは、とても遅いことが知られています。条件にもよりますが、1秒間に1ミリにも満たない程度と説明されることが多く、カタツムリよりもゆっくりです。
さらに、家庭やビルで使われている交流の電気では、電子は一方向に進み続けるわけではなく、行ったり来たりを繰り返しているだけです。発電所でつくられた電子が、はるばる家まで旅をしてくるわけではありません。
ところてんで考えてみる
この関係は、ところてんにたとえるとイメージしやすくなります。
ところてん突きの筒に、ところてんがぎっしり詰まっているとします。片方の端から押すと、反対側の端から、すぐにところてんが出てきます。
- 押したところてんが、筒の中を一気に移動したわけではない
- 筒にはもともと、ところてんが詰まっている
- 押す「力」が、端から端まで一瞬で伝わった
電線も同じです。電線の中には、もともと電子がぎっしり詰まっています。発電所側で「押す」と、その力が光に近い速さで伝わり、遠くの電球のところにある電子が動き出します。
蓄電池の「速さ」も、この仕組みの上にある
電力系統では、つくる量と使う量を常に一致させる必要があります(電気は「貯金」できない)。そのバランスが崩れそうなとき、すばやく出力を変えられる設備は、調整の担い手として重宝されます(「調整力」という裏方の仕事)。
蓄電池が充電から放電へ、あるいはその逆へと切り替わると、その変化は電線を通じて、すぐに系統全体に伝わっていきます。電子がのんびり動いていても、「合図」は一瞬で届く。電気の世界の不思議な二面性です。
次に明かりをつけるときは、筒の中で押し出されるところてんを思い浮かべてみてください。
※本記事は、電気の伝わり方をわかりやすく説明するための読み物です。厳密な物理の説明とは異なる簡略化を含みます。
